未来に向かって 〜舞台『月の獣』〜

友人から贈られた「啓翁桜」。よい年越しができそうです

第一次世界大戦中にオスマン帝国による迫害を受けて家族を失い、一人アメリカに亡命したアルメニア人青年アラム。写真だけで選んだ同じアルメニア人の少女セタを妻としてアメリカに呼び寄せ、夫婦として生活をスタートさせます。しかし、最初から二人はかみ合いません。

アラムはセタに自分の思い描く理想の家族像を押しつけます。妊娠しないことをセタの罪のように言い立てる言葉は残酷です。

アラムもセタも、目の前で家族が惨殺された過去を背負っています。セタはアラムにそれを全て話すことで、そして偶然知り合った孤児ヴィンセントの世話をすることで少しずつ前を向きます。

しかしアラムは、セタに何も話せない。言葉にすることができないほど記憶は生々しく、彼を苦しめ続けているのです。

ヴィンセントとのある出来事がきっかけになり、「自分の子どもさえいれば、故郷で幸福だった頃のような『家族の形』さえ作れれば、過去を忘れられると思った」とアラムがセタに初めて気持ちを吐露したところから、夫婦はやっと過去の呪縛から解き放たれます。

過去を「なかったもの」にするのではなく、その経験もひっくるめてお互いの存在を受け入れ、今できる最善と思えることを見つけて実行することが、思い描いた通りではないにしても、よりよい未来につながる。明るく楽しい作品ではありませんが、ラストには希望がありました。